【知財情報】欧州特許条約法改正のお知らせ

欧州特許条約の導入以来の最大の変化をもたらすことが予想される新しい法制度である、「統一特許裁判所に関する協定(Unified Patent Court Agreement)」が2023年6月1日に発行される予定です。これにより、特許出願が認可され、特許付与通知(EPC規則71(3)の通知)受領後、単一効特許制度(Unitary Patent; UP)、統一特許裁判所制度(Unitary Patent Court; UPC)の「移行期間」(該協定の発行後6-12年とみられている)は、従来の各指定国への有効化手続きを進めるか、または、上記新制度に基づく単一効特許の有効化手続きを進めるかを選択することが可能となります。

以下に概略を説明します。

1. 単一効特許の選択
出願から登録(特許付与公告)までの手続きは、従来と同じで、欧州特許庁が一括して調査・審査、特許出願維持年金の管理等を行います。
EPC規則71(3)に基づく通知(特許付与通知)発行後、下記UPCA (欧州統一特許裁判所協定)批准17カ国については、従来と同様に各指定国内で特許権を有効にする為の手続き(各指定国が要求する要件:現地語へのクレーム翻訳あるいは明細書全文翻訳の提出や委任状の提出等)を経て欧州特許を有効化するか、単一効特許の申請をするかの選択が、前記統一特許裁判所制度(Unitary Patent Court; UPC)の「移行期間」に限り可能です。

2. UPC協定(Unified Patent Court Agreement:UPCA)批准国17か国:
オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スウェーデン
注)批准国が拡大する可能性はあります。イギリスを含むEU(欧州連合)非加盟国等は、単一効特許の対象外です。
なお、上記17カ国について単一効特許を選択した上で、その他の国については、従来と同様に各指定国内で特許権を有効にする為の手続き(上述)を経て並行して欧州特許を有効化することが可能です。

3. 単一効特許のメリット・デメリット

【メリット】
・侵害訴訟等を起こす場合、従来は権利確定国毎に手続きが必要でしたが、単一効特許であれば、統一特許裁判所が、国をまたいだ侵害行為についても統一された法令に基づいて判決を下すため、全ての単一効特許の批准国において同一の効力を持つことになります。
・各指定国内で特許権を有効にする為の個別手続き(上述)が不要です。
・特許維持年金の更新料が安くなる場合があります。ドイツ、フランス、イタリア、オランダの維持年金の合計額に相当し、各国毎の現地代理人費用も発生しません。
・EPO(欧州特許庁)による一元的な管理(名義変更手続き等)がされます。

【デメリット】
・「移行期間」においては、欧州特許の全文翻訳の提出が必要です。(英語以外のEU公式言語)
・権利維持を要する国数が減っても特許維持年金費用は減りません。
・統一特許裁判所が下した判決は、単一効特許全体に効力を及ぼすために、一括的に権利が無効化する可能性が生じます。
・単一効特許については、統一特許裁判所の管轄から除外すること、Opt-Out;オプトアウト(後述)はできません。

4. 欧州統一特許裁判所の権限からのオプトアウト
従来、欧州特許出願は特許付与の公告日から9カ月間に限り欧州特許庁に異議申立手続きを通じて1つの判決によって特許が失われる(有効国全てを含む欧州特許そのものを無効とする)可能性がありましたが、該協定発行後は、有効国毎に個別に訴訟するのではなく、いつでも統一特許裁判所により1つの訴訟で該特許の無効化が可能となります。そこで、この一括無効化を回避するために、上述の「移行期間」に限り、統一特許裁判所の管轄権を除外し各国国内裁判所に管轄権を移行する手段として「オプトアウト」”Opt-out”(除外)があります。

藤川特許事務所

大阪事務所

大阪市中央区今橋2-5-8 トレードピア淀屋橋8階 電話:06-6203-5171

尼崎事務所

尼崎市長洲西通1丁目1番22号 藤川ビル2階、3階 電話:06ー6481ー1297

詳しい事務所案内はこちら

メールでのお問い合わせはこちら