意匠の裁判例

建設業

組立家屋

平成30年(ワ)第26166号 意匠権侵害差止等請求事件
侵害の成否:侵害(賠償額 85万1238円(利益の10%))

原告: 被告:
登録番号:第1571668号(部分意匠)
意匠に係る物品:組立家屋
意匠に係る物品の説明:本物品は、工場生産された複数の建物キットを建設現場で組み立てることで建築される組立て家屋である。
意匠権者:株式会社アールシーコア
国内2箇所で顧客に販売し、1箇所で販売の申し出をした。

ポイント:

以前は、意匠登録の対象は「市場を流通する動産」に限られており、「建築物」などの不動産は登録できませんでした。しかし、「明治以来の大改正」と言われる令和元年の法改正により、「建築物」の意匠登録が可能になったため、今後はこのような、建築物の外観のデザインに関する裁判が増える可能性があります。

 本件自体は、平成29年に登録されたもので、「建築物」ではなく「組立家屋(動産)」として登録を受けています。被告の建物も、「組立家屋」であると認定され、侵害が成立しました(「使用される時点においては不動産として取り扱われる物であっても,工業的な量産可能性が認められ,動産的に取り扱われ得る物である限り,「物品」に該当すると解するのが相当である。」)。つまり、本件は厳密には「建築物」に関する事件ではありません。

 しかし、本件は今後、「建築物」の外観のデザインに関する裁判には大いに参考になると考えられます。
 例えば、以下のように認定されている点は今後参考になると考えられます。
・本件意匠の需要者は「一般消費者」と認定された点(「前記本件意匠及び被告意匠に係る各物品の需要者は,いずれも,木造の戸建て住宅の購入に関心がある一般消費者と認めるのが相当である。」)
・正面視のデザインが、需要者の注意、関心を引くと認定された点(「本件意匠に係る物品は組立て家屋であるところ,家屋は,その性質上,家屋に出入りする際など,居住者や訪問者等が必ずその外観を目にすることから,居住に直接関係する内部の構造のみならず,その外観のデザインそのもの,特に通常玄関の存在する正面視のデザインが,看者である需要者の注意や関心をひくという側面もある。」)
・正面からみて十字を形成する柱部と梁部は、構造上必須ではなく、デザイン性を考慮して配置されたと認定された点(「梁部は,家屋の構造上必須のものとして配置されるものではなく,専ら,柱部と相まって略十字を形成させ,かつ,上記略十字の形状を浮き出るように配置するなどというデザイン面を考慮して配置されたものであることが推認される。」「柱部も,家屋の構造上必須のものとまでは認めがたく,主として上記のようなデザイン面を考慮して配置されたものであることが推認される。」)
 また、本件は、今後、他社の建築物の登録意匠を知らずに侵害している可能性は常に考慮し、特に斬新なデザインを含む建築デザインについては、クリアランス調査等の対策は必要と言わざるを得ないことを再認識させるものでもあります。

製造業

体重測定機付体組成測定器

平成24年(ワ)第33752号 意匠権侵害差止等請求事件
侵害の成否:侵害(損害額:1億2915万3662円)

原告: 被告:
本件意匠2(関連意匠)
登録番号:第1425945号
意匠に係る物品:体重測定機付体組成測定器
意匠権者:オムロンヘルスケア株式会社
株式会社タニタ
・「被告ブランドの顧客吸引力」も、被告の販売数量に寄与していることが、侵害額の減額に影響

ポイント:

この種の体組成計は、正面から見てスイッチなどを操作すること、薄さも宣伝でアピールされることから、正面と、側面から見た薄さが要部(需要者が注意を払う部分)と認定されました。(「体組成計を使用する際は,液晶表示窓やスイッチ模様が配置されている本体正面から体組成計を見て操作すると当然考えられることによれば,需要者が体組成計を購入する際には,製品を使用することも想定して,本体正面に電極がどのように配置されているか,電極部分がどのような形状をしているか,スイッチの位置や形状,測定結果が表示される液晶表示窓の位置や形状等,正面視の形状についてまず着目するといえる。」「また,本件意匠1と同一意匠を有する原告製品1は薄さを特徴として宣伝されていることからすると,需要者は製品の薄さにも注意を払うと考えられる」)

逆に、体組成計の背面は、要部でない(需要者が注意を払わない部分である)と認定されています。

そのうえで、正面からみたスイッチの配置、電極の配置・形状などが共通し、需要者に共通の美感を与えるものであるから、類似する、と判断されました

原告と被告はともに市場シェアが大きいため、賠償額が高額となりました。J-PlatPatで確認したところ、株式会社タニタは種々の体重計を意匠登録しており、意匠登録に対する意識は高いことがわかります。本件侵害品については意匠登録は不要と判断したか、出願したが登録できなかったのか、いずれかと推察されますが、意匠登録を不要とする判断は慎重にすべきこと、出願したが登録できなかった場合、場合によってはデザインの変更を検討すべきことは、今後の実務の参考になります。

タイルカーペット

平成22年(ワ)第805号 意匠権侵害差止等請求事件
侵害の成否:侵害(損害額:367万7428円)

原告: 被告:
登録番号:第1289529号
意匠に係る物品:タイルカーペット
意匠権者:東リ株式会社
株式会社サンゲツ

コメント:

カーペットの表面全体に,巨視的には1条の連続する細線が略小波状模様をなしている点が共通しており、類似すると認定されました。
登録意匠と被告意匠の差異点として、登録意匠は縞模様が密な状態であるのに対し、被告意匠は密な状態ではない点が挙げられたものの、登録意匠の一部を150%に拡大したもので比較され、そのような差異点は消失する、と認定されています。

食品包装用容器

平成30年(ワ)第2439号 損害賠償請求事件
侵害の成否:侵害(損害額:5888万7589円)

原告: 被告:
意匠登録第1297087号
意匠に係る物品:食品包装用容器

コメント:

裁判所は、原告意匠の要部の認定について、意匠の機能的特徴が重視され、上方或いは斜め上方から見た形状が要部であると認定しました。
(「本件意匠は,食品包装用容器の複数の収容部の底に配された凹凸状の底部の形状に関する部分意匠であるところ,同意匠は,食品包装用容器の各収容部にそれぞれ生の焼売等を収納した状態で電子レンジにより加熱した際,焼売自体はX字状の突条に支えられ,熱や水蒸気が対流することにより焼売が蒸し上がるのと同時に,焼売から流出した水分や脂分が,突条の周りの段部に流れ落ち,収容部の四隅のポケット部に溜まることにより,焼売の底が水分や脂分でベトつくことなく食べられるという機能的な特徴を備えるものである。」「本件意匠に係る物品のような食品包装用容器を見る際には,上方あるいは斜め上方から見下ろした際の底部の形状,すなわち底部の突条を含む凹凸形状に注目する」)。

そして、焼売を入れる各収容部の底部の中心に,対角線上に長さが等しいX字状の突条が設けられている点は意匠の具体的構成態様の一つとして挙げられました。

被告意匠は,突条はX字状に交差せず,中央部に,空間があります。この点、裁判所は、「最も注目を引く差異である」「2本のX字状の突条と,4本の非交差で中央に空間のある突条では,美感が異なると言わざるを得ない。」と述べています。

上記の裁判所の見解を見ると、意匠が類似しないと判断するのか、と思われますが、これに続いて裁判所は、被告意匠の突条の太さが原告意匠のそれと大差なく、中央の空間は小さいものであるから、「X字が変化した形状」であるとの印象を与えるに過ぎず、決定的な影響を与える差異でないとして、意匠は類似すると認定しました。
(「被告製品の突条も,収容部の対角線上に位置し,その先端が丸みを帯びている」「突条の幅の太さにも顕著な差はない」「被告製品の突条の中央部分にある空間の直径は,突条全体の長さの約4分の1であり,突条の空間側の突端も,先端側と同様に丸みを帯びているため,全体として,被告意匠の突条は,X字状の中央部分を欠くもの,X字が変化した形状という印象を与える。」)

被告は、中央部に空間を設けたことによる被告製品独自の機能性を主張していますが、そのような機能性についての立証をしておらず、裁判所は「特に立証がなく、不明であると言わざるを得ない」として、主張を採用しませんでした。
(「被告らは,被告製品においては,焼売等から流出した水分や脂分が上記中央の空間を通ってポケット部に流入し,かつ,水蒸気の対流によって熱の通りにくい焼売の中心部まで短時間で加熱することができる一方,本件意匠に類似する意匠を備える原告製品においては突条のX字の中心部に水蒸気及び油脂等が付着し,焼売の底部がベトついてしまうから,突条の形状の差異が機能性の優劣につながっていると主張する。しかし,被告製品及び原告製品における,焼売等から流出した水分や脂分の経路や水蒸気や熱の対流の仕組みについては特に立証がなく,不明であるといわざるを得ないから,上記被告らの機能性の優劣に関する主張を採用することはできない。」)

他社の登録意匠の侵害を回避するために、デザインを変更することはよくなされます。本件の被告らも、原告製品からデザインを変更したと思われますが、変更の程度が小さかったと思われます。
また、被告意匠が機能性について立証できていた場合、結論が変わっていたのかもしれません。意匠の訴訟において、デザインが似ていないことの主張の一つとして、機能性の主張は、立証と共にしっかり行うべきです。

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