【知財情報】知財高裁令和3年(ネ)第10007号のご紹介

第1 事案

 特許第4171216号に記載の物クレームと方法クレームのうち、方法クレームでの特許権侵害を認めた事案

第2 概要

1.本件発明の請求項1

 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、
 その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、
 他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、
 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤。

2.本件発明の請求項10

 複室輸液製剤において、
 含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と
 別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、
 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
 ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法。

3.本件発明の概要

 第1室4または第2室5を押圧することにより、連通可能部3が剥離して薬剤が外気に触れることなく第1室4と第2室5が連通される。また、微量金属元素収容容器6が、第1室4内に吊着されており、外側から押圧することにより破袋され、第1室4と連通する。

4.被告製品の概要


 混注口側から投与口側に向かって順に大室、中室、小室T、小室Vに区画されている。そして、小室Tの外側の樹脂フィルムで形成された空間に、外側樹脂フィルムよりも薄い内側樹脂フィルムで形成された袋(以下、本件袋)が収納されている。さらに、大室と中室との間は、樹脂フィルを外部からの押圧によって剥離するシールで接合して仕切られている。そしてさらに、中室と小室Tとの間は、内側の樹脂フィル同士がシールで接合されており、外部からの押圧によって小室Tの収納空間中の本件袋が中室と連通する。なお、小室Tと小室Vとの間も、同様に外部からの押圧により連通可能となっている。

4.裁判所の判断

上記の点を踏まえ、本件発明の請求項1における「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室」という文言について、裁判所は以下のように判示している。

被控訴人製品における小室Tは,外側の樹脂フィルムによって構成される空間の中に,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)を内包するという二重の構造になっているにすぎず,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための空間としての構成において,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間に機能の優劣等があるとはみられない。この点,小室Tと中室との間の接着部について,内側の樹脂フィルムの接着を剥離した場合のみならず,外側の樹脂フィルムの接着のみを剥離した場合であっても小室Tの外側のフィルムの内側の空間に中室に収容された輸液が流入してこれが本件袋の外面に直接触れることとなり,中室内の輸液と本件袋の中の液との分離の態様に少なからず差異が生じるのであり,輸液同士の混合という点では専ら小室Tの内側の樹脂フィルムの接着部分が意味を持つとしても,隣接する中室内の輸液からの分離という観点からは,外側の樹脂フィルムにも重要な意義があることは明らかである。そして,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)は,被控訴人製品に係る輸液容器において基礎となる一連の部材とは別の部材により構成され,上記基礎となる一連の部材に構成を追加する部分である(このことは,小室Vの内側の樹脂フィルムによって構成される空間と対比しても,明らかである。)。
以上の諸点を踏まえると,小室Tについても,被控訴人製品に係る輸液容器の構成の中で基礎となる一連の部材である外側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件小室T)をもって,「室」に当たるとみるのが相当である。

上記のことから、本件袋と小室T何れも、「室」に当たると判示している。
このことでもって、裁判所は以下のように判示している。

「室」が「連通可能」であることが要件とされているところ,小室Tに関しては,連通時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,「室」である外側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件小室T)に輸液が通じることはない。

以上のことから、裁判所は、請求項1は、特許権侵害には当たらないと判示したものの、請求項10には、「外部からの押圧によって連通可能な」という文言がなかったことから、特許権侵害に当たると判示した。

第3 考察

 本判例では、物クレームと方法クレーム両方を記載していたことにより、物クレームでの侵害は認められなかったものの、方法クレームでの侵害は認められた事案である。
 物クレームでは、部材同士の関係性を明確にするためや、中間処理の段階で、往々にして構造自体を特定しなければならないことがあるが、方法クレームでは、物の構造自体を特定する必要がないと思われるため、上記の判例を参考に、物クレームだけではなく、方法クレームを入れておくのも一案かと思われる。

(文責:正木)

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