【知財情報】知財高裁令和6年(ネ)第10031号のご紹介
日本語ウェブサイトに海外の寿司店を紹介することは、「広告」に該当するか
第1 事案
ダイショージャパン株式会社が、マレーシアの寿司店「Sushi Zanmai」のロゴを自社の日本語ウェブサイトに掲載したことが、日本の商標権の侵害に当たるかが争われました。
第2 概要
1.ダイショージャパン株式会社及びそのウェブサイト
ダイショージャパン株式会社は魚介類等の輸出等を行う会社です。マレーシアの寿司店「Sushi Zanmai」を経営するグループ会社に魚介類等の輸出を行っていました。なお、このグループ会社は、マレーシアで「Sushi Zanmai」を商標登録しています。
2.裁判所の判断
裁判所は、ダイショージャパン株式会社の日本語ウェブページは商標法2条3項8号の「商品若しくは役務に関する広告」に該当しないと認定しています。理由としては、このウェブページは、ダイショージャパン株式会社の魚介類等の輸出等の事業を紹介するためのものであるためです。つまり、輸出先の紹介としてグループ会社の店舗紹介を掲載しているに過ぎず、寿司店の広告を行っているわけではない、というわけです。
したがって、裁判所は、ダイショージャパン株式会社のウェブページは「寿司店」の広告ではなく「魚介類等の輸出等」の広告である、と認定しています。
被告各表示は、その態様に照らし、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けた本件各ウェブページの中で、被告の事業を紹介するために使用されているにすぎず、本件すし店を日本国内の需要者に対し広告する目的で使用されたものではなく、現にそのような効果が生じている証拠もない。 |
したがって、本件ウェブページ掲載行為は、「本件すし店の役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為」として商標法2条3項8号に該当するものということはできない。 |
また、裁判所は、このようなケースを日本の商標権侵害であるとするならば、属地主義の原則に反する、とも述べています。
問題となっているすし店「Sushi Zanmai」はマレーシアにあるので、日本にいる間は、このすし店を株式会社喜代村のすしざんまいとを思い込んで入店する、ということは起こりえません。そのため、違法とすべきような事態は日本では起こらないにもかかわらず、日本の商標権によりマレーシアの「Sushi Zanmai」の使用を制限することは、属地主義に反する、というわけです。
本件すし店が日本で役務を提供していない以上、その誤認の結果(原告の店であると誤認して、本件すし店から指定役務の提供を受けること)は、常に日本の商標権の効力の及ばない国外で発生することになるはずであり、日本国内で原告各商標権の出所表示機能が侵害されることはない。 |
(株式会社喜代村の日本の商標権でマレーシアのすし店の「Sushi Zanmai」の使用差し止めを認めることは)実質的にみて、原告各商標の国内における出所表示機能等が侵害されていないにもかかわらず、外国商標の当該外国における指定役務表示のための適法な使用を日本の商標権により制限することと同様の結果になるから、商標権独立の原則及び属地主義の原則の観点からみても相当ではないというべきである。 |
なお、裁判所は、上記のように解することは、WIPO共同勧告(※)とも合致する、とも述べています。
※2001年に一般総会において採択された「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」 インターネット上の標識の使用が、ある国での使用を構成するか否かの判断基準が示されている。
第3 検討
本判決は、侵害を認めた東京地裁の判断を翻し、侵害を認めませんでした。これについては、東京地裁の判断がよいとする意見、知財高裁の判断がよいとする意見、様々です。
私見としては、このウェブページは「すし店」の広告ではなく「魚介類等の輸出等」の広告である、との認定がストンと腑に落ちると思いました。例えば、ショッピングモール内の店舗の紹介のページで、各店舗の商標を掲載していることが、その商標をそのショッピングモール運営者が使用していることにはならないのと、似ていると感じます。
(文責:三上祐子)