【知財情報】1国の企業のウェブサイト上における商標の使用が、他国の商標権を侵害するか

越境ECでの商標使用における問題

日本の商標権は日本国内でのみ効力を生じ、外国まで及ぶものではない(属地主義)。一方、インターネット上のウェブサイトは、世界中で閲覧が可能である。そこで、1国の企業のウェブサイト上における商標の使用が、他国の商標権を侵害するか、が問題となる。すなわち、米国企業Aが、米国において商標Aについて商標権を有している。そこで、自社ウェブサイトにて、商品aについて商標Aを使用する。しかし、そのウェブサイトは日本でも閲覧が可能である。その日本で、日本企業AAAが商標Aについて商標権を有している。このとき、米国企業Aの商標Aの使用行為が、日本企業AAAの商標権を侵害するかどうかが問題となる。

裁判所の判断

日本では、上記のような侵害事件の裁判例がまだない。ただし、不使用取消審判事件において、上記のような使用が、日本での商標の使用といえるかについて、判断している。

1.Papa John’s事件(使用に当たらないケース)

知財高裁 平成17(行ケ)第10097号

”イ 確かに,証拠(乙8,9,24)によれば,被告は,インターネットのウェブページ(本訴乙8・審判乙3,本訴乙9・審判乙4)において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示してピザに関する広告を行い,フランチャイジーの募集を行っていること,上記ウェブページには日本からもアクセスが可能であること,上記ウェブページは,日本の検索エンジン「MSNサーチ」,「アップル・エキサイト」等において「papajohns」,「papa john’s」の語で検索した場合に直ちに検索できる(本訴乙24・審判乙5,6)ことが認められる。
ウ しかし,上記ウェブページは,米国サーバーに設けられたものである上,その内容もすべて英語で表示されたものであって,日本の需要者を対象としたものとは認められない。上記ウェブページは日本からもアクセス可能であり,日本の検索エンジンによっても検索可能であるが,このことは,インターネットのウェブページである以上当然のことであり,同事実によっては上記ウェブページによる広告を日本国内による使用に該当するものということはできない。”

 

2.Coverderm事件(使用に当たるケース)

知財高裁 平成29(行ケ)第10071号

”「本件ウェブサイトは,日本語で本件商標に関するブランドの歴史,実績等を紹介するとともに,注文フォーム及び送信ボタンまで日本語で記載されているのであるから,リンク先の商品の紹介が英語で記載されているという事情を考慮しても,本件ウェブサイトが日本の需要者を対象とした注文サイトであることは明らかである。そうすると,審決が認定するとおり,本件商標を付した商品が日本の需要者に引き渡されたことまで認めるに足りないか否かはさておき,少なくとも,原告は,本件商標について本件要証期間内に日本国内で商標法2条3項8号にいう使用をしたものと認められる。」
coverderm
引用:http://coverderm.jp/ 判決文中にて、原告(商標権者)が保有しているウェブサイトとして紹介されたページ。

 
上記の判断に鑑みると、商標を日本国内で使用しているか、の判断には
・ウェブサイトに日本語ページがあるか
日本人向けに商品等の販売を行っているか
などが重要と考えられる。
すなわち、米国企業Aは、サイト内に日本語ページがある、あるいは、日本人向けに商品棟の販売を行っている、ということであれば、日本企業AAAの商標権を侵害する可能性がある。

一方、ウェブサイトが日本からアクセス可能かどうか、検索するとヒットするかどうか、は重要性は低いと思われる。

インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告

1国の企業のウェブサイト上における商標の使用が、他国の商標権を侵害するか否か、という点に対し、WIPO(世界知的所有権機構)が検討指針となるような共同勧告を公表している(https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/wipo/document/1401-037/kyoudoukannkoku.pdf)。
この共同勧告で、第2条において、「インターネット上の標識の使用は、その使用が、第3条で書かれているようにメンバー国で商業的効果(commercial effect)を有する場合に限り、これらの規定の適用上、当該メンバー国における使用を構成する。」と規定している。

そして第3条では、例えば、以下に該当の点を考慮して、メンバー国で商業的効果を有するかを検討すべきとしている(いくつかの点は、日本裁判所の判断と一致している)。

・その国で、ビジネスを行っている又はその計画に着手している
・その国に所在する顧客に商品やサービスを提供
・その国に所在する顧客に対して提供する意図のない旨の記載がない
・価格が、その国の公式通貨
・連絡先として、その国の住所、電話番号又はその他の連絡方法を示している
・その国で主に使用されている言語

この共同勧告は、WIPO加盟国において何ら拘束力を持つものではないものの、インターネット上での商標の使用が、他国での商標の使用できるかどうかの検討には大いに参考になる。
企業は、上記の点を勘案し、ウェブサイト上での商標の使用が、意図しない国での商標使用とみなされないよう、対策することが好ましい。

(文責 三上)

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