PCT(国際出願制度)出願

特許協力条約(PCT)の特徴

1.世界中の多くの国への出願を、一つの国際出願(PCT出願)で一括して提出できる

WIPO特許協力条約(PCT)に則った国際出願(PCT出願)を、所定国の特許庁(受理官庁)に所定言語で提出すると、PCTの全ての締約国へ同時に出願したと同等の効果が得られます。例えば、日本語又は英語でPCT出願書類を作成し、それを日本特許庁に提出すれば、その時点で有効なすべてのPCT加盟国に対して「国内出願」を出願することと同じ扱いを得ることができます。PCT国際出願日は、各国の出願日になります。

PCTの締約国は130ヵ国以上あり、主要国は全て含まれていると考えて実用上差し支えありません。ただし、台湾が含まれていないことに注意が必要です。台湾は個別に出願する必要があります。

PCT出願をすると、すべての締約国を自動的に指定したとみなされます。EPC加盟国の場合、各国出願を個別に指定するとともに、EPC出願も指定したものとみなされます。

2.PCT出願は「出願の束」

PCT出願は、「出願の束」と言われています。出願後、受理官庁(日本特許庁)はすべての国際出願に対して先行技術に関する調査(国際調査)をし、その発明が新規性、進歩性など特許取得に必要な要件を備えているか否かについて審査官の見解を付して出願人に提供します。出願人はその結果を考慮して、希望に応じて更なる予備的な審査(国際予備審査)を受理官庁(日本特許庁)に請求することもできます。これは、各国が行う特許付与のための実体審査ではなく、あくまでも予備的なものです。これらの制度を利用することで、特許取得の可能性を精査し、厳選した国においてのみ手続を係属させ、コストの効率化、適正化が可能となります。

単一のPCT出願の書類提出によって多国への出願書類提出という手続きを代用できるのですが、そのPCT出願の実体審査や特許付与は、出願人が選択する各国へ国内移行してから各国別に各国の審査基準に基づいて行われるというものです。この点で、EPC出願のように、出願から審査そして特許付与までが一括して行われる制度とは異なります。

3.パリルートと組み合わせることができる

PCTルートとパリルートを組み合わせて利用することができ、この方法は非常にポピュラーです。例えば、まず日本へ特許出願し、その後、その日本特許出願から1年以内に、その日本特許出願に基づく優先権を主張して(パリルート)、PCT出願を行うという方法です。

それにより、先に行った日本特許出願の出願日の利益を得た上で、多国への特許出願の束を出願できるのです。

この方法は、いずれの国に出願するか未定の段階で、まず日本へ出願し、その後に、幾つかの外国へ出願しようと決めた段階で、PCT出願をするというケースでよく利用されます。他方、初めから日本だけでなく幾つかの外国へも出願することが決まっていれば、初めからPCT出願を行うことも可能です。

パリルートのみで外国出願する場合、日本特許出願日(優先日)から1年以内に出願する国を決定し、明細書等の翻訳文を準備する必要があります。一方で、同じ期間である、日本特許出願日(優先日)から1年以内にPCT出願をすれば、各国別に必要とされる書類(明細書の翻訳文等)を各国特許庁宛に優先日から30カ月以内に提出すればよいのです。つまり、パリルートのみで直接外国出願するのではなくPCT出願をすれば、約1年半、出願国を選択するための判断を先送りにすることが出来、その間、技術動向を探り、前述の国際調査報告書・見解書等の内容を吟味して出願国を決定すること、或いは場合によっては外国出願を断念する決定をすることができます。

4.各指定国へ移行手続きをしてから、各指定国で審査を受ける必要がある

PCT出願に基づいて各指定国で特許を取得するためには、各指定国にPCT出願の明細書等全文の翻訳文を提出する手続き(国内移行手続き)をする必要があります。

各指定国への国内移行手続きが終わると、PCT出願は各指定国にて国内出願と同等に扱われ、各指定国にてその国の特許法に従った審査を受け、審査をパスするとその国で特許権が発生することになります。

国内移行手続きは、パリルートと組み合わせて優先権を主張した場合はその優先日から、初めからPCT出願した場合には国際出願日(PCT出願の出願日)から、原則30ヵ月以内(20ヵ月又は31ヵ月以内の国も一部あります)に行うことができます。

出願してから国内移行手続きをするまでの30ヶ月という期間を国際段階といい、各国へ移行した後の段を国内段階といいます。

各指定国の国内移行期限については最新のWIPOホームページをご参照下さい。

5.30ヶ月の国際段階の間に、効率的な特許取得や費用削減のための対処ができる

上記で述べた30ヶ月の国際段階の間に、特許庁の先行技術調査の結果である国際調査報告を受けて、場合によってはそこに挙げられた引例を検証し、特許になる可能性を検討したり、その検討結果に応じて請求の範囲を補正したりすることができます。

さらに、国際予備審査を請求して、場合によっては補正を伴い、特許庁の審査官による特許性の判断を受けたりすることもできます。なお、国際予備審査の結果は、各指定国での審査を拘束するものではありあませんが、出願人及び各指定国の審査官にとり、有用で影響力のある判断材料になります。

このことは、PCT出願を使わない単純にパリルートの出願に比べ、出願人にとり、効率的に特許を取得したり、無駄な費用を削減したりする上で、大きなメリットです。このメリットの具体例を、以下に示します。

ここでは、まず日本へ出願し、その日本出願を基礎に優先権を主張して米国と中国に出願する場合を想定して、1.パリルートの場合と 2.PCT出願の場合とを対比してみます。

具体例

1.パリルートの場合

日本出願から1年以内に英語と中国語の出願書類を用意して、それぞれの国に提出する必要があります。翻訳文の作成には相当大きな費用がかかりますから、1年以内に大きな出費を強いられます。

その後、米国、中国でそれぞれ審査を受けるまで、どのような引例が挙げられ、どのような方向で特許が取れるか不明ですから、審査を受ける前に、適切な補正を行うことも容易ではありません。

2.PCTルートの場合

日本出願から30ヵ月(2年6ヶ月)まで、英語と中国語の翻訳文を提出する期限が延びます。翻訳文作成の大きな費用の発生を先送りにすることが出来ます。

30ヵ月の国際段階の間に、国際調査報告を見て、どのような方向で特許が取れそうか予想できるので、必要に応じ一層特許が取得しやすい内容に請求の範囲を補正することができます。

さらに、国際予備審査を請求すれば、どの方向で特許がとれそうか、一層信頼性の高い判断を得ることができます。こうして国際段階で得た貴重な情報を活用すれば、国内移行後、米国、中国での審査をより効率的に進めて、より少ない費用と短い期間で特許を取得することができます。

あるいは、国際調査報告を見て特許が取れないと判断した場合や、30ヶ月の間に米国、中国での特許取得に興味がなくなった場合には、国内移行を取りやめてそれに要する大きな費用を節約することができます。

制度概要

出願の言語

日本特許庁に出願する場合、日本語又は英語です。

国の指定

出願時に全締約国を指定したと自動的にみなされます。

日本企業にとり注意すべき点は、日本も自動的に指定される点です。日本出願を基礎に優先権を主張してPCT出願した場合、そのままにしておくと、その基礎となる日本出願が取り下げられた(PCT出願に置き換わった)とみなされます。そのため、基礎の日本出願とPCT出願のいずれを生かすかを決定し、もし、基礎の日本出願を生かすならば、日本の指定を取り下げる手続きを、PCT出願の願書中か、又は優先日から1年4ヵ月以内に別途する必要があります。

日本の国内特許出願に基づいて、パリ条約による優先権を主張してPCT国際出願を行い、その指定国に日本が含まれる場合、「自己指定」とみなされます。実務的には、PCT国際出願を行う際に、願書の「日本を除外する」の項目にチェックしない場合です。

自己指定のメリットとして、以下の点が挙げられます。

・審査請求の期間及び特許権の存続期間が、優先権主張を伴うPCT国際出願の出願日から起算されるため、基礎出願よりも、審査請求の期間及び特許権の存続期間が長くなる。

・審査請求料が、日本の国内特許出願よりも安くなる。

※参考 審査請求料 (2019年4月1日以降出願で請求項が3の場合)

日本の国内特許出願              150,000円

特許庁が国際調査報告を作成したPCT国際出願   90,200円

国際出願日

PCT出願が、受理官庁(日本特許庁の国際出願課)に受理された日が国際出願日とされます。

国際公開

優先日より1年6ヵ月後に出願内容が国際公開されます。

国際調査報告

PCT出願をすると、所定の国際調査機関(日本国特許庁等)が先行技術調査を行い、出願から数ヵ月程度の間に、調査結果の国際調査報告が出願人に送付されます。

国際調査には、先行技術文献のリストだけでなく、請求の範囲の各項の新規性や進歩性に関する見解(国際調査見解書)も付随されています。

その結果が「新規性・進歩性あり」となった場合、その国際調査を行った特許庁の管轄国へ国内移行した出願(日本特許庁の場合は日本出願、欧州特許庁の場合はEPC出願)は、すんなりと登録に至る可能性が高いと期待できます。

出願人は、国際調査報告と国際調査見解書を見て必要があれば、国際調査報告を受け取ってから2月又は優先日から16月のうちいずれか遅い日までに、請求の範囲を補正することができます(19条補正)。

国際予備審査

出願人は、新規性や進歩性についてより信頼性のある特許庁の見解が欲しい場合、国際調査機関の見解書の送付日から3月又は、優先日から22月のうち、いずれか遅く満了する期間までに、審査手数料を支払って国際予備審査を請求することができます。

その際、必要に応じて、請求の範囲や明細書を補正することもできます(34条補正)。

この段階で新規性/進歩性無し、と指摘されたクレームの補正を行い、その補正後のクレームについて審査官から肯定的な見解を得ることが出来れば、この補正後のクレームが国内移行後の審査の対象となりますので、国内移行後の米国・中国における審査において、それぞれ同じ理由で拒絶理由通知を受ける可能性を回避することが期待できます。

国内移行手続

パリルートと組み合わせて優先権を主張した場合はその優先日(基礎となる出願の日)から、一方、優先権主張を伴わず直接PCT出願した場合には国際出願日から、原則30ヵ月以内(20ヵ月又は31ヵ月以内の国も一部あります)に、権利を取得したい指定国へ国内移行手続きを行う必要があります。

国内移行手続きでは、その国の特許庁へ所定の出願料金を支払うとともに、その国の公用語への明細書等の全文の翻訳文や各国に必要に応じて求められる委任状、譲渡書等を提出します。

国内移行手続きの完了後の各国での審査~登録手続きは、その国での国内出願と同様の手続き(パリルートで行った場合と同様の手続き)になります。

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